平成20年度障害者自立支援調査研究プロジェクト



重度障害者の重度障害者等包括支援の

効果的活用方策に関する調査研究事業





<目次>

平成20年度障害者保健推進事業 重度障害者等包括支援調査研究事業報告
1 
実態調査
 
■■自立支援費利用額実態調査 1
2 
■■自立支援費利用額実態調査 2
3 
■■ウィークリープランと利用額事例
4〜6 
■■実態調査状況
7 
重度障害者等包括支援システムに関する提案
8〜10
■■現行の運用状態からみる「包括」の意味
11 
■■包括であることを尊重した上での重度障害者等包括支援の可能性
12〜15
■■ウィークリーモニタリングについて
16〜17
まとめ
18



-1-



平成20年度障害者保健推進事業

 重度障害者等包括支援調査研究事業報告


<重症心身障害児者の重度障害者等包括支援の効果的活用方策に関する調査研究事業報告>


 この事業は、重症心身障害児者の重度障害者等包括支援の効果的活用方策に関する調査研究事業として、平成19年度に行った調査研究事業を継続して行ったものである。

 平成19年度には、重度障害者等包括支援事業がどのように有効利用がされているかを中心に実体的な調査を行ったが、本事業の支給決定者が30名弱ということでほとんど制度が利用されていない実態や請求システムの不透明さ、また、包括の本来的な意味合い等、制度利用が進まない原因と思われる課題整理が中心となった。

平成20年度は、平成19年度に大きな課題として残った、

1. 現行の運用から見た包括の意味と課題整理 

2. 「包括」を尊重した上での制度利用の可能性への提案 

3. モニタリング期間について意見 

4. 国庫負担基準額の見直しについての提案 

を中心に行った。

また、
重度障害者等包括支援事業の?類の方の対象者像と生活実態をビジュアル的に明らかにするため、

5. 重症心身障害者の地域生活(DVD制作)

  

上記5項目中心に平成20年度重度障害者等包括支援調査研究事業を行うこととした。






-2-



実態調査


■自立支援費平均利用額一覧表 1


*対象 重度障害者等包括支援事業対象者2類 の対象者像に一致する方
 (実際の支給決定を受けている方ではなく、対象者像となり得る方の有効データ29名分)
*期間 平成20年 4月〜平成20年12月利用分)
*共同生活介護(ケアホーム)で生活し、日中 生活介護を利用
*青色 ・重度障害者等包括支援支給決定者
・国庫負担基準を超える額については、市町村が負担
*赤色 ・重症心身障害者B型通園を利用


自立支援費月額平均請求額表








-3-

■自立支援費平均利用額一覧表 2


*対象 重度障害者等包括支援事業対象者2類 の対象者像に一致する方
 (実際の支給決定を受けている方ではなく、対象者像となり得る方の有効データ23名分)
*期間 平成20年 4月〜平成20年12月利用分)
*生活  家族と同居  単身生活中 生活介護および重症心身障害者B型通園
*黄色 ・単身生活者
*青色 ・重度障害者等包括支援
*赤色 ・重症心身障害者B型通園を利用


自立支援費月額平均請求額表 

平成21年6月 自立支援費利用額









-4〜6-













-7-

<以上のデータ分析>

■自立支援費平均利用額一覧から考えられること

 前記、自立支援費平均利用額一覧から、重度障害者等包括支援対象者(2類)の方たちがサービス利用額は、重度障害者等包括支援事業が規定する国庫負担基準額45.5万円を超えるものとなっており、市町村の上乗せ支給が不明瞭な状態で重度包括支援の利用を考えるに至らない状況であることが伺える。

 また、現在、重度障害者等包括支援の支給決定を受けている方でも、国庫負担基準を超え市町村が負担をしている。しかし、市町村負担制限により生活の幅は狭まり、介護部分を削る事は出来ないため余暇を減らしている状況は、ウィークリープランや請求額からは判断できないものともなっている。

 さらに、重症心身障害者通園事業B型を利用し、介護給付費請求が起きていない方も国庫負担基準は超えている。

■重度障害者等包括支援支給決定者の状況

 重度包括支給決定者 A B さん

平成19年度に行った現地調査での状況からの変化は無く、引き続き重度訪問介護支給量が実質的には制限され、身体等生活に直結する介護についてはサービスを減らすことはできないため、余暇等の時間を減らしサービス利用している。

また、サービスの足りない部分をケホームスタッフが補い生活を成り立たせている状況を判断することも困難となっている。さらに、国庫負担基準が引き上げられた場合の想定では、重度訪問介護の支給量を増やす事で手厚い介護と趣味や楽しみの時間を持つことが可能となり、地域で生活していることの意味が出てくるとともに、ケアホームでの生活を望む人たちの道標にもなる。と回答していただいた。

■ケアホームで生活

積み上げ方式での支給決定 C Dさん

?類対象者像と一致するC Dさんのケースでは、ウイークリープラン作成時の支給量が受け入れられ、ケアホームで必要となる長時間の見守りを含めた支援として、多くの重度訪問介護の支給決定がされている。

本来、重症心身障害者や重度重複障害者の地域生活には、これら支援の隙間が無いサービス提供が必要となることが、ウイークリープランやサービス利用額から見てとれる。

さらに、EさんやFさんのように、単身自立生活をする場合はより多くの支給決定とサービス提供が必要になる事が伺える。

 これら、重度障害者等包括支援支給決定者と積み上げ方式の支給決定を比べると、プラン上の支給決定の段階で、重度障害者等包括支援には何かしらの制限が加わっているように感じる。

 






-8〜10-




重度障害者等包括支援事業

1.「包括」であることの意味が消滅している現行の運用




1)支給決定と請求の現状

 重度障害者等包括支援事業については、実施事業所が少ないことと、支給決定者数が全国でわずか30人弱ということもあってか、極端に事務取扱についての資料が少ない。よって、4時間=700単位という報酬単価の記述の仕方によって、包括的な意味=何でもありのような誤解をもたれている感がある。しかし、現行の支給決定と請求の方法をみると、残念ながら、包括とは名ばかりで、居宅介護の一メニューでしかなく、複雑な計算式が存在するのみになっている。以下、現行の支給決定の方法と、請求の方法である。

【支給決定の方法】

1
ウィークリープランをたて、1週間の必要な時間数を計算する
2-1

日中部分の時間数を週何時間になるかを計算し、4時間で割り、700単位を掛ける

2-2

夜間部分の時間数を週何時間になるかを計算し、4時間で割り、700単位を掛ける

2-3

深夜部分の時間数を週何時間になるかを計算し、4時間で割り、700単位を掛ける

3

2−1,2,3を足して出た「1週間に必要な単位」を7で割る (1日の支給決定単位)

4
1日の支給決定単位に当該月の日数をかけ月単位をだす
5
短期入所、共同生活介護の利用プランがある方は、それぞれのサービスの日数分の単位を足し算する
6
当該月の日数で割る →支給決定単位

 このようなプロセスで重度包括の支給決定は1日○○単位という形で行われる。ウィークリーのプランを事業所が作成し、それを提出し、行政と協議をしながら行われている。問題は、この支給決定が、実は、4時間単位などではなく、実質30分単位で行われていることである。つまり1時間175単位、30分、87.5単位で支給決定ためのウィークリープランを立て単位計算をさせられている(表1)。短期入所と共同生活介護は、別に「重度包括内の支給決定」を区分6の相当でうけることになっており、短期入所と共同生活介護については、支給決定の単位上には現れないが、「重度包括内の支給決定」がなされていることになっている。

 短期入所と共同生活介護以外の分を計算し、それに短期入所分と共同生活介護分を足し算し、再度当該月の日数で割るということをしている。

 当たり前であるが、これの支給決定方法にしたがって請求の方法もこれに従って行われる。

1
実績単位数×(95%以上利用した場合:100/95)=算定単位数
2

算定単位数/当該月の日数=請求単位

3

請求単位×当該月の日数=サービス単位数

4
サービス単位数×10.6(単位数単価)=総費用額
5
総費用額×0.9(給付率)=給付率に基づく請求額
6
総費用額-給付率に基づく請求額=利用者負担額

 あとで、詳しくふれるが、包括といいつつ、支給決定=請求の方法が、30分を単位にしたサービスベースの請求方法になっている以上、このサービスは「包括」にはなり得ていない。

2)サービス運用の限界

 重度障害者等包括支援事業が制度的にスタートしてから一番多い誤解はおそらく「重度障害者等包括支援事業は何でもありだろう」ということだと思う。その誤解は、「包括」という介護保険の小規模多機能型居宅介護で言われている定額制をイメージしたことばと、居宅介護(重度訪問介護)の介助者の資格要件がないというイメージによって生み出されていると思われる。

重度障害者等包括支援事業の内実をみると、実はそれは単なる誤解であることがわかる。現行の制度での重度障害者等包括支援事業は、単に、他の障害者自立支援法の自立支援給付のサービスをまとめるという意味において「包括」なのであり、それぞれのサービスにおいては、その事業所のサービスの規制をうける。つまり、生活介護を利用しているのであれば、単独で生活介護の支給決定をうけている方と同じ扱いになる。

先にも触れたように、短期入所と共同生活介護は別枠の扱いなので、当然、短期入所と共同生活介護の規制を受ける。そうすると、障害者自立支援法の施行から指摘されていた共同生活介護へのヘルパーの派遣は、(改正の中で、徐々に認められてきているが)、実は制度の運用ルールを遵守して考えると、重度包括ではうけられない(と思う)。理屈があわないのである。仮にこの理屈を認めることになると、毎日24時間で支給決定を出した上に、共同生活介護の単位を上乗せできることになる。二重に支給決定を出すことを可能にしておかなければ、共同生活介護、短期入所の上乗せは不可能である。可能かどうかは最終資料がないため判断できないが、放置されたままの問題である。

 このように、現行のルールでの重度障害者等包括支援事業の運用は、自由とはまったくかけ離れており、あくまでも各サービスの規制およびそれ以上を受けていると言わざるをえない。

3)再委託問題

 大阪府などは、現在、運営規程に再委託をするならば、その再委託先を書けといっている。しかし、重度包括そのものの制度設計をよくよく鑑みれば、実際は、再委託はあまり考えていないことがわかる。よく似た包括的なサービスとして、介護保険の小規模多機能型居宅介護があるが、小規模多機能型居宅介護は再委託を認めていない。「すべて実施事業所丸抱え」が前提である。重度障害者等包括支援事業の場合は再委託が認められているため、仮に、すべての直接援助を再委託して、重度包括事業所がマネジメントだけをすることも制度上は可能である。しかし、そんなことをしてしまうと、重度包括事業所に入る収入は0になる(実質は事務経費があるのでマイナス)。

 重度包括の理念が重い障害のある人がいろいろな方と出会い地域の中で生きていくということを保障していく仕組みであるとするならば、実際は、再委託が必要不可欠であると、思うが、制度的に保障されているとは言い難い。しかしながら、個人のケアプランに依拠してサービスが組み立てられていくのが重度障害者等包括支援事業である以上、その指定基準に、再委託先の指定時よりの明示といったものは馴染まないと思われる。









-11〜15-



2.「包括」であることを尊重した上での重度障害者等包括支援事業の可能性


 1.で指摘したように、現行の重度障害者等包括支援事業の運用では、それぞれの他の自立支援給付のサービスをまとめているというだけにすぎない。では、他のサービスに比して、「包括」であるようにするためにはどうすればいいか。いくつかの提案をしたい。

★支給決定単位を4時間=1単位に

 一番のポイントは、介護保険の小規模多機能型居宅介護の考え方と同様に、包括=定額制であることを位置づけることである。重度障害者等包括支援事業の場合は、4時間を一単位とした定額制なので、支給決定単位を4時間1単位にすることによって、定額制に近づけることができる。その際、注意しなければならないことは、重度障害者等包括支援事業の対象になる最重度の方の場合、多くは二人介護を行わなければならないことが多くあるということである。この場合は、二人介護を前提に支給決定をださなければならない。この考え方を具体的にすると

支給決定単位を4時間=1単位にする。

すべて繰り上げで、ウィークリープランを立てるときも、1日または1週間のプランを4時間区切りで立てる。4時間、8時間、12時間というように。

端数はすべて繰り上げ。 その上で1週間の単位÷7×31日+短期入所+共同生活介護=支給決定単位/月


 という形になる(表2,3)。この支給決定の方法がかわってこそ、その支給決定単位および時間の中での「包括」的な支援が行われるといえるだろう。

1)1類型で想定されるモデル。

 ALSなどの難病の方をその対象像として示している1類型は、生活の典型的なモデルは、24時間の介護者がついての活動であり、基本は居宅介護(重度訪問介護)サービスの連続利用というイメージが強い。

 そうすると、重度障害者等包括支援事業での連続利用と、重度訪問介護での連続利用の差は、おそらく資格要件にのみ絞られるだろう。

 重度訪問介護の場合は、15%加算があるが、重度障害者等包括支援事業の場合は資格をもっていない方もOKということで、15%の減算、という解釈になろうか。

 ただ、通所看護のような日中活動の拠点や、レスパイト的な病院以外の短期入所の場の必要性なども一方でいわれることもあり、その場合は、2)の2類型想定に似通ってくるだろう。

2)2類型で想定されるモデル

 2類型はいわゆる重症心身障害者をその対象像としている。?類型の方の典型的な生活モデルは、横浜の「朋」や西宮の「青葉園」などが実践として示してきた通所施設(生活介護)を支援の中心においた生活モデルである。

 このモデルで考えたときに一番大きな問題は、現行の支給決定方法でいくと、生活介護の単価が重度障害者等包括支援事業の支給決定にしてしまうと低くなってしまうことである。また、共同生活介護を利用する人へのヘルパーの派遣ができなくなってしまう(かもしれない)ことである。この二つの問題が解消されない限り、すでに生活介護や他のサービスが使えている方が、あえて、重度障害者等包括支援事業の支給決定を受けることは考えにくい。

 そうすると、考えられるのは、サービス基盤がとてもうすく、重心の方の日中活動がない地域や、今まで全くサービスを利用したことがない方が、取りかかりとしてサービスの利用を始めていくときに利用する。または体調の低下が著しく、これまで生活介護を利用できていた方が、体調の変化によって利用できたりできなかったりした時に利用する。といったことが考えられる。前者は単独の重度障害者等包括支援事業所でも考え得るが、後者は生活介護に付置するような形で考えていくことになると思われる。

 ただこの場合も、現行の制度下では認められていない入院時のサービス提供を認めていかなければ、有効になっていかないことを付け加えておく。

3)3類型について

 3類型はいわゆる強度行動障害の方がその対象像である。

 3類型に関しては、行動援護との単価差が大きすぎ、生活介護の単価差との二重差によって、残念ながら、有効なモデルが出し得ない状況になっている。行動援護のサービスを無資格者ができうること以外にない







-16〜17-

4) ウィークリーモニタリングについて

 今回の研究事業で、実際に重度障害者等包括支援事業を5ケースについて行っているNPO法人寝屋川市民たすけあいの会地域ケアセンター「ヘルパーステーションほっと」で基本となるウィークリープランから、どの程度の変動があったかについて、ウィークリーモニタリングを行った。

 結果は、「表4:重度包括プラン変更状況」に示した。事業所の都合やご家族の都合、ご本人の体調や予定という変動理由にて、変動率が高い方と低い方の差が大きいが、高い方については、80%を超えている。

 しかしながら、変動のパターンが決まっている方がほとんどであり、果たして、ウィークリーモニタリングが必要かどうかについては、現行の制度でのマンスリーモニタリングで十分であるという担当者の所見をいただいている。

重度包括 ウィークリープラン変更状況


 重度包括の場合、ウィークリーのプランニングとモニタリングが位置づけられている。

 この一年間の中で、当事業所の5ケースがどの程度、基礎プランからの変更があったかを示したのが、上図である。

 ケースバイケースといってしまえばそれまでだが、1ケースをのぞき、変動%は高い。変動要因は、
(1)体調の変動。 (2)家族の要因。 (3)事業所のサービス提供状況 の3つがほとんどである。






-18-



平成20年度 重度障害者等包括支援調査研究事業のまとめ


 

 平成20年度の調査研究からは、国庫負担基準額や請求単位の問題が明らかであった。今回の見直しで、自立支援法報酬改定(案)には、4時間 700単位から800単位への変更が示されたが、国庫負担基準が引き上げられなければサービス利用が制限されることとなる。

 平成20年9月時点での調査では、国庫負担基準を最低9万単位まで引き上げなければ、現行の積み上げ方式で支給決定を受けている人たちの重度包括の制度利用には繋がらないと考えていた。

 しかし、国庫負担基準が引き上げられた場合でも、支給決定が4時間単位でなく30分単位で行われている限りサービス提供を行う事業者にとってもメリットは無く、重度包括支給決定を受けてもサービス利用につながらないこととなる。

 前記、現行運用、包括の意味等々踏まえると、報酬単価や国庫負担基準の引き上げだけでは制度利用につながらず、システム全体の再検討が必要であり、さらに、重度障害者等包括支援事業については、サービスの少ない地域にあって重い障害の人たちのとっかかりのサービスとして利用はできると考える。






平成20年度 重度障害者等包括支援調査研究事業にご協力いただいた方々

●実態調査・データ作成   全国10事業所
●重度障害者等包括支援システムに関する提案
・冨田昌吾 氏 寝屋川市民たすけあいの会 事務局長
龍谷大学短期大学部など非常勤講師 
●調査研究事業委員
・日浦美智江 氏 社会福祉法人 訪問の家 理事長
・生田目明彦 氏 社会福祉法人 訪問の家 朋(とも)施設長
●DVD作成協力
・貞末麻哉子 氏 マザーバード・ファクトリー
●平成20年度重度障害者等包括支援調査研究事業事務局
・吉田孝一 社会福祉法人 訪問の家 本部
・渡辺雄一郎 社会福祉法人 訪問の家 本部







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